TEXT:大月 蛍
カワサキのZ900RSやヤマハXSR900といったネオレトロスタイルのネイキッドバイクの人気に便乗し、ホンダがリリースしたのがホーク11。ロケットカウルを備えたネオカフェレーサースタイルで、2022年の大阪モーターサイクルショーで初お披露目。その後、2022年9月29日に発売されたが、2023年12月に生産終了となった短命モデルだ。
筆者は発売前、山中湖でのメディア向け試乗会に参加したが、初インプレッションは「悪くはないが、特別良いわけでもない」というのが正直な感想。見た目について賛否はあるものの、実物を見ると「これはこれで個性的があって面白い」と思えた。バイクの美的感覚も人それぞれであり、異性の好みと同じように個人差がある。だが、それはホーク11単体でみれば、ということ。Z900RS、XSR900といったライバル車と慣れべると、やはり珍妙な印象は否めない。
スラクストンと比べると、差は歴然
ロケットカウルといえばカフェレーサースタイルで、クラシックなカスタムに適している。トライアンフのスラクストンにも純正オプションパーツで採用されている。だが、ホーク11はスラクストンのようなヴィンテージな雰囲気は皆無で、ブルーの車体色と相まって未来的。YouTubeでは「サイバー」と表現する人もおり、まさに的を射た表現といえる。
デザインへのこだわりは見られるが、質感が伴っていない。スラクストンはアルミ削り出しパーツを多用し、高級感があるが、ホーク11は樹脂製パーツが多く、プラスチック感が強い。こうしたバイクを求める層には所有感が重要である。FRP製ロケットカウルにコストがかかっているとはいえ、全体的な高級感に欠ける印象だ。そしてブラック液晶の単眼メーター。まず見にくい。そしてそのデジタル表示も、カフェレーサー的な趣はない。これを「サイバー感」というのなら、確かにそうかもしれないが…。
走行特性はいいが、走りの質は…
試乗会ではワインディングや高速道路など、1時間ほど自由に走行できた。セパハンのポジションには慣れが必要だが、スーパースポーツに比べれば快適で、「拷問」と表現されるような過酷さはない。街乗りの巡航も問題なく、ライディングのしやすさをしっかり考えられた車体設計がされていることを感じた。
試乗では、勾配のあるワインディングで本領を発揮。鋭さはスーパースポーツには及ばないが、視線をコーナー出口に向けて走れば、意図したラインに沿って滑らかに曲がってくれる。ホーク11のコーナリングは「自己完結型コーナリング」とでも呼びたい。サーキットで他者と競争するためのコーナリングではなく、あくまで自分のペースでコーナーを楽しみたい。下りでもバランスが崩れることなく、登り下り問わずライディングの安定感はさすがホンダといったところだ。
しかし、「走りの感動」に欠けるのが残念だ。2気筒エンジンなので4気筒のもつ高回転域でのエモーショナルな刺激は望めないとしても、鼓動感すら薄いのは興ざめ。例えばトライアンフのボンネビルT100はエンジンの存在感を感じさせ、アクセルを開ける愉しみがあるが、ホーク11にはその要素が乏しい。こういったライディングプレジャーもそうだが、質感、デザイン、ハイテク装備といった、100万円を軽く超えるバイクにも関わらず、購入者の背中を後押ししてくれる要素が際立ってはいないのがホーク11というバイクなのだ。きっと試乗した多くのライダーも同様に感じたのではないかと思う。
おもしろいと思えない物を借りていても仕方がない。試乗時間が残っているにもかかわらず、カメラマンの撮影が終わるとそのままバイクを返却するため、帰路についた。
時代にそぐわないシートの硬さ
最後に、筆者が感じた最大のマイナスポイントはシートの硬さだ。どのメディアのインプレッションにも書かれていなかったと思うが、試乗では30分ほどでお尻が痛くなり、後日の試乗機会でも1時間もすれば激痛に変わる。最近はツーリングを目的にするライダーも多いが、このシートではとてもではないがツーリングライダーにはお勧めすることはできない。
ホーク11は終売となったが、一縷の望みもある。スズキのGS1200SSのように、生産終了後に再評価される可能性もある。入手が難しくなる前に、少しでも気になる人は手に入れておくのがいいだろう。